バッハ入門に最適の本は・・・といろいろ読んでみて、今現在、一番おすすめしたいのが、この書籍!
バッハ・コレギウム・ジャパンを率いる鈴木 雅明さんへのインタビュー形式の書籍『バッハからの贈りもの』。インタビュアーは加藤浩子さん。
入門書に期待することと言えば、
- バッハの伝記的知識
- 声楽曲/器楽曲さまざまなジャンルからおすすめの曲の紹介
ですが、この点をちゃんと踏まえた上で、
- インタビュー形式で、誰にでも読み易い言葉で
- 演奏家・研究家として、日々対峙している問題をきちんと開示
されており、中々類のない良書です。
その他、こまごまと長所を挙げて行くと切りがありません。“古楽系”とひとくくりにされる活動の実態が今ひとつ掴めない・・・とお思いの方には、鈴木氏そしてバッハ・コレギウム・ジャパンの事例で、どういった考えで、どういった活動をしているのか、一端を垣間見せてくれることも大きな美点。
楽譜の選び方・読み方、楽器そのものの選択、演奏に当たっての注意点、そして、そもそもその楽曲が生まれた背景・当時の教会/演奏者の様子などなど・・・専門的で門外漢にはややこしそうな話しながら、一般の読者に向けて噛み砕いた話で進んで行きます。ご一読後、いろいろ聴いてみたい!と思われること請け合いです。
いまだ好学家を除けば、まだまだ一般的とも言い難い声楽曲を重視していることも長所。「言葉がわからないからあまり聴いていない」という方も、強い関心を持たれることでしょう。
鈴木雅明・加藤浩子『バッハからの贈りもの』目次紹介
目次をご紹介すれば、多岐にわたる内容、それぞれのトピックの面白さが明白になるかと存じます。
- 序に変えて(鈴木雅明)
- プロローグ バッハの魅力…p.3
- バッハのスピード感 / 構成力 / バッハへの接近 / 研究心 / 共通するイメージ / 面白がらせるバッハ / 求心力
- Part1 生涯を訪ねて
- 第1章 ワイマール時代まで…p.47
- 第2章 ケーテン時代…p.79
- 第3章 ライプツィヒ時代…p.100
以上の三章は、バッハの人生の足跡を大まかに追いながら、楽曲の紹介等々にも話が及びます
- Part2 声楽の歓び
- 第4章 カンタータへの招待 第一四七番を中心に…p.141
- 第5章 聳え立つ秀峰…P.140
対比の美学(ヨハネ受難曲)/豊饒な感情表現(マタイ受難曲)/集大成的志向(ミサ曲 ロ短調)
- Masaaki Suzuki Album(著者の近影など)…p.205
- Part3 器楽の愉しみ
- 第6章 ほとばしる楽想 平均律クラヴィーア曲集…p.223
- 第7章 バッハのオルガンをめぐって…p.265
- Part4 演奏の現場から
- 第8章 古楽の楽しみ…p.289
- 第9章 BCJの音作り…p.332
- エピローグ バッハをめぐる世界観…p.383
- 演奏家の位置 / オリジナル資料に還る / 古楽のウソ / 音楽創造のスタンス / キリスト者として / 「ただ神にのみ栄光あれ」
- あとがき(加藤浩子)
- 鈴木雅明/BCJのディウコグラフィー 2002年7月時点
さまざまな事柄を語る鈴木雅明氏の語り口が、専門家としての解説と素朴な(?)バッハ好きの感想を行き来することも、読み易さを助けていると思います。冒頭、
バッハの音楽というのは、宗教的な面とか、対位法のこととか、ぼく自身いろいろな機会に述べてきてはいるんですが、考えてみれば、いちばん最初にとりこになってしまう魅力というのは、ひょっとしたらこのスピード感なんじゃないか、と。
とありますが、こんな様子で始まった話がどうやって膨らんで行くか・・・皆様もぜひお手に取られてお楽しみください!
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンのおすすめ名盤・CD
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンの録音もいまや膨大で、どれから聴いていいか・・・と迷うところ。「上述の名著の中で長く触れられた曲がおすすめ」と割り切ってしまうのも一案です。
鈴木氏とBCJがどんな演奏をしているのか、この本をご覧になれば、俄然興味がわきますし、読みながら、CDを聴かれれば頁をめくるのも楽しくなるかと思います。
まずは声楽曲。筆頭のおすすめは、輸入盤で10枚組ながら大変安価なセットとなっている、
輸入盤CD 鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン J.S.Bach:The Sacred Masterworks(10枚組)
カンタータ以外のメジャーな声楽曲を揃えた有り難いBoxです。
収録曲は、ヨハネ受難曲(ver.IV 1749, 録音1998年4月) / マタイ受難曲(録音1999年3月) / ミサ曲 ロ短調(録音2007年3月) / クリスマス・オラトリオ(録音1998年1月&2004年3月)
曲の詳細な解説も読み応えがありますが、輸入盤なので英語・独語・仏語で記述。テキストは言語と英語の対訳。
歌詞はさして難しいものではないですし、上述の本があれば解説もそちらで十分でしょう。合唱と楽団の響きの清澄さ、曲ごと・フレーズごとに細かに表情を変える丁寧な音楽作り・・・そういうと他にもありそうに聴こえますが、こういう演奏は他にない大変ユニークなものです。
清澄な響きだから迫力不足ということはなく、歌詞と共にじっくり聴いてみれば、非常にドラマティックな合唱と演奏と感心されることでしょう。
次は器楽曲。
鈴木氏みずからが鍵盤奏者となった録音がちゃんとございます。第一におすすめしたいのは、皆様の中にはご自分で習って弾かれた方も多いと予想される、インヴェンションとシンフォニア。
輸入盤CD 鈴木 雅明(ハープシコード) J.S.バッハ:インヴェンションとシンフォニア
一見、簡単そうだけれど、非常によく練られた曲である旨、文中、鈴木氏も感嘆の声を漏らしておりますが、鈴木氏は従来の演奏とは違う姿を見せようと、さまざまな試みが見せています。インヴェンションの第1曲がバッハの三連符編曲ヴァージョンであるのは、判り易い例。
もちろん弾き方や解釈にかかわる部分も楽しいアイディアが豊富で、例えば、軽快なテンポでスタッカートを多用して弾かれることの多い第10番など優美な曲に変わります。装飾音の入れ方も工夫があって、バッハの楽譜をこうやって読んでもいいんだ・・・と、楽譜を片手にピアノで確かめながら、聴いてみるのも一興です。(楽譜:ウィーン原点版 J.S.バッハ:インヴェンションとシンフォニア 42a)
一章を割いて解説された平均律クラヴィーア曲集も全曲録音あり。
輸入盤CD 鈴木 雅明(ハープシコード) J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻(2枚組)
輸入盤CD 鈴木 雅明(ハープシコード) J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻(2枚組)
この二組で全曲です。
敢えて、絞っておすすめすると、この辺りになりますが、上述書ではもっとさまざまな曲に触れていますし、殆ど鈴木氏の録音もございますので、ぜひ自由にお探しになってください。
カンタータとオルガン曲については、鈴木 雅明氏の次著『わが魂の安息、おおバッハよ!』でカンタータとオルガンについて詳しい説明をなしているので、そのご紹介の機会に持ち越そうと思います。
今回は、このあたりで、では!
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